パリオリンピックが後半戦を迎えている。3年前の地元東京開催ではコロナ禍のため無観客の中で行われた。開催の是非が問われ、そして開催が決まった後も大会運営の方法など、平時とは違う大変な苦難を強いられた形となった。パリ大会真っ盛りではあるが、当時の東京開催の五輪にあらためて思いを馳せた。
というのも、パリに対してある種のうらやましさがあるからだ。観客の中での開催、選手は声援を肌で感じ、それを力に変える。観客の盛り上がりは試合を引き立て、画面越しで視る我々にも現地の興奮が伝わる。オリンピックは、普段あまり目にすることのない競技を視る機会になる。試合そのもの、実況や解説者による競技説明もそうだが、現地の観客の声援が、その競技の価値を一層高め、我々の興味を掻き立てる。なぜ、よりによって地元東京開催の時に‥。
文句を言っても仕方がないが、パリの盛り上がりを見るとそう感じてしまう。
さて、後半戦も様々な感動に巡り合えると期待しているが、現在までで一番感動(心に残った)のは、柔道の混合団体戦。日本が銀メダルを獲得した、ユニークな種目だった。
何がユニークか。
・エントリーメンバーを毎回入れ替えてよい(結果的に計14名の選手が出場した)
・個人戦の階級と異なる対戦相手となることも(2階級違う対戦もあった)
・そもそも個人戦の階級設定と異なる(それ故、異なる階級での試合が実現)
・3勝3敗になると、デジタルルーレットにより最終決戦の階級が決まる
(これについては様々な憶測を呼んだ)
男女混合での試合は、近年様々なスポーツで取り入れており、例えば卓球混合ダブルスでは前回の東京大会で金メダルを獲得したのは記憶に新しい。ただ柔道混合団体においては毎試合エントリーメンバーを入れ替えられるので、出場した全員にメダルが与えられる。柔道におけるチームジャパンの力を総結集した集大成であり、手に汗握って観戦した。
決勝はフランス戦。実はフランスの柔道人口は日本の2倍と言われる。小学生の授業にも「柔道」がある。総人口は日本の約半分なので、日本で生まれた柔道というスポーツがフランスにどれだけ浸透しているのか、フランス人がどれだけ柔道を愛しているかが分かる。そして男子個人戦最重量級(100キロ超級)オリンピック3連覇(今大会含め)の国民的英雄、テディ・リネール擁し、前回の東京大会の混合団体金メダル。日本はこの時銀メダル。
リベンジを誓った今回。日本は幸先よく勝ち星を重ね(特に階級差のある相手に勝利した、高山莉加選手、角田夏実選手には感動した)、3勝1敗で迎えた5戦目、個人戦男子66キロ級で連覇を果たした阿部一二三選手が、1階級上の選手と対戦し死闘の末惜敗。6人目の高市未来選手も延長戦で敗れ、3勝3敗で最終決戦を迎える。ここで例のデジタルルーレットの登場。固唾を飲んで見守る中、ルーレットは「90+」で止まる。最重量級の決戦。日本は一度敗れている斎藤立。故斎藤仁(ロス、ソウルの最重量級連覇)を父に持つ若手ホープ。フランスはその斎藤に勝っている、あのリネール。再戦は金メダルを争う最終決戦となった。死闘の末、斎藤は破れ、フランスが2大会連続の金メダル。日本は2大会連続の銀メダルとなった。試合後、阿部一二三と斎藤立に涙があった。
死闘、涙、それぞれのストーリー。感動にもいろいろあるが、何に対してもすぐに感動できること、感動のハードルが低いことは素晴らしいことだと思う。オリンピックはそのことを確認させてくれる。