師走に入った。
常識が覆り、非日常が日常となったこの一年、はたまた世界的潮流である脱炭素社会に向けての動きとEV革命の号砲に合わせて、新総理の「脱炭素宣言」とデジタル化社会への意思表示は、我々の事業領域・ポートフォリオ、業務フロー、組織体制、価値観などの変革への動機付けとなった。
国内においては、今はEV革命前夜といったところ。目の前ではコストや航続距離、給油(充電)インフラにおいてガソリン車に優位性がある。しかしかつて江戸時代末期の黒船来航がきっかけとなり、その後間もなくして260年以上続いた江戸幕府は終焉、明治維新を迎えたように、イノベーション(黒船)によってそれまでの秩序や価値観は短時間で破壊される。あっという間だ。ウーバーによるタクシー業界の破壊、スマホによる携帯電話市場やデジカメ市場をはじめとしたあらゆる業界の枠組みを破壊したことは承知の事実。
ガソリン車の新車販売を2030年代半ばまでに廃止する。最終目標である2050年のカーボンニュートラル(CO2排出実質ゼロ)に向けての中間目標。自動車メーカーのEV投資のピッチがあがる。そしてガソリン車市場縮小のスピードは加速する。
その影響は、石油流通に携わるプレーヤー、自動車メーカーの他、エンジン部品メーカーを直撃する。EVは部品数がガソリン車の半分程度。自動運転技術と親和性の高いEVによって、完成車メーカーを頂点とし、部品メーカーを下請けとするピラミッド構造そのものが崩壊する。米テスラ(EV専業メーカー)の販売台数はトヨタの1/30(30分の1)に過ぎないが、時価総額はすでにトヨタの2倍。黒船は眼前に現れている。
黒船が浦賀に初めて来航したのは1853年。幕府は翌年にアメリカと和親条約を結び鎖国政策をやめ開国。1858年には欧米諸国との間に、2つの不平等条約を強いられる。日本の植民地化を狙う欧米諸国に対し、尊王攘夷を叫ぶ幕末の志士らが奮闘、1867年に大政奉還を成就し幕府滅亡、翌年の1868年に明治維新となる。この間わずか15年。
明治政府の宿願は、この不平等条約を改正(撤廃)すること。そのためには、その欧米諸国の政治・統治手法を学び、文化を知り、産業革命を成し遂げる必要性があった。1889年に大日本帝国憲法が公布され、翌年初の国会が開かれる。日清、日露の2つの戦争に勝利し、その間に産業革命を成し遂げ、明治末期に条約改正を果たし欧米列強の仲間入り。約50年の年月をかけて本懐を遂げた。敵を知り、敵から学び、敵に勝利した。
明治時代の日本人の精神は、幕末の黒船来航により築かれた。さて、現代の黒船をどう迎えるか。防戦一方では耐えられないことは、歴史が教えてくれる。